- トミナガ
- どうだった?自分ひとりで自分のオリジナル曲を初めてお客さんに向けて歌うっていうのは。
- 住岡
- 恥ずかし過ぎて、あんま覚えてないですね……。ただテンパって終わって、「はあ……」ってなったときに、「ヨカッタです」みたいに声をかけられたから……。
- トミナガ
- そのいちばん最初のライヴのときに、SDの人が観に来ていたの?
- 住岡
- そうです。
- トミナガ
- じゃあ、偶然?
- 住岡
- ほんとに偶然です。当日券で入ってきた人がひとりいるって、店長さんが「今日、梨奈ちゃん初めてだから、当日券のお客さんの分、梨奈ちゃんに入れとくね」って言われて、「どの人ですか?」って聞いて「この人だよ」って言われて、そこから話をして。
- トミナガ
- 今、これを読んでくれているデビューを志す人たちには、なんにも参考にならない話だね(笑)。運命的な……。なにを努力したわけでもないんだもんね。ファーストライヴでそういう人が観ていて……っていうのは、引きが強い!
- 住岡
- (笑) ほんと、なんの参考にもならないですね。
- シカトしたのち、大学3年生の春に札幌のSD担当者と再会。連絡を改めてとるようになって、その年の夏にはSDのサポートのもと、初めて東京でもライヴをすることになります。9月には面接して仮契約して……という短かいスパンのなかでいろいろなことが進んでいくなか、住岡梨奈はどういう実感があったのでしょうか。
- 住岡
- たぶん(プロということを)意識し始めるのはデビューしたあとからになるんですけど、仮契約しているあいだは、とりあえず目の前のライヴだとか制作とかに集中していて、まだ音楽を仕事にするという実感が全然なかったんで、「これ、ほんとに仕事してるのかな」って(笑)、ライヴをやることが仕事だとはなんとなく思えなかったりとか、自覚するのにすごく時間がかかったので、ほんと上京してからですね、考えたのは。
- トミナガ
- 大学を卒業するまでのあいだ、1年以上の育成期間があったってことだよね。
- 住岡
- 北海道と東京だから、そんなにひんぱんに連絡をとるわけでもないし、ひんぱんにみんながこっちに来るわけでもないし、というなかで月に1回会えるか会えないかという状況で、打ち合わせをしたり、アーティスト写真を撮ったり、ライヴをしたり、という時期でしたね。
- トミナガ
- ということは、デビュー直前の2012年4月のLIQUIDROOMのライヴは卒業してすぐのタイミングだったんだね。
- 住岡
- そうですね。上京して初めてのライヴだったと思います。
- トミナガ
- あの日のステージ、僕も堂島くんもハラハラして観ていた覚えがあるんですけど、どうだった?
- 住岡
- わたしより、たぶん(斎藤)有太さん(この日の住岡バンドのバンマス)のほうが緊張していた気が……(笑)。デビュー前から取材があったり、慣れないことばっかりのなかで「歌ってみて」っていう感じで、どう見られているのかなあって思いながらのステージでした。ライヴ、最初はあまり好きじゃなかったですね。自分が歌うのが好きでやってるだけで、人にお金を払って聴いてもらうっていうことが……「どうしたら楽しんでもらえるんだろう?」っていうことを考えながら歌うのってそもそも自分がやりたいことと違うんじゃないかと思う部分もあったし、ひとりで歌うのが楽しいんだったら、別にライヴで見せるんじゃなくてひとりで部屋で歌っていればいいんじゃないかっていうふうに考えたときもあったし……。でも、デビューに向けてというなかで、人に見せるということが楽しくなったり、そこが共感を共有できるスペースだということがわかったりもしました。
- トミナガ
- うん。
- 住岡
- わたし、プロのライヴを観に行ったのが2009年夏のRISING SUN ROCK FESTIVALが初めてで、その前も自分から人のライヴを観に行くということがなくて、じゃあ「なんでみんながお金を払ってライヴを観たがるんだろう?」と思うと、CDでは得られないものがあるんだなって……「会いに来てもらう」ってスゴイなと思い始めてからは、自分もそれに応える努力をしていかなきゃいけないんだなって認識に変わってきました。